山本耀司アン・ドゥムルメステールがパリで密会

「ヴォーグ オム ジャパン」に、山本耀司とアン・ドゥムルメステールの対談が載っています。
この対談は、2011年1月にパリのヨウジヤマモトオフィスで行われました。

 

共鳴し合うお互いの精神

アン・ドゥムルメステール08 対談アン・ドゥムルメステール
「VOGUE HOMMES JAPAN VOL.6 2011年S/S」より

 

  • アン・ドゥムルメステール
    Photography : Carlotta Manaigo

「VOGUE HOMMES JAPAN VOL.6 2011年S/S」から、山本耀司とアン・ドゥムルメステールの対談を引用します。

編集部

当初、お互いの服についてはどのようにして知ったのでしょうか?

山本耀司

自然と奇跡的に出会ったんだ。
雑誌や新聞を見て彼女のことを知ったとき、「ワオ、これは強い奴が出てきたな・・・・・。これ(アンのデザイン)をやっておけばよかった!」って思ったね。

アン・ドゥムルメステール

確か私がまだ学生のころ、パリを歩き回っていたら偶然、小さな店を見つけたの。
それがヨウジヤマモトの最初のお店だったのよね。
当時、ファッションの勉強をしてはいたけれど、それほどファッションに興味はなかったし、ヨウジのことも知らなかったわ。
自分の将来について模索している途中だったの。
そんなとき、ヨウジのお店の前を通って、ショックで息を飲んだわ。
「こんなにも強く、美しいものを作る人は誰?」って。
自然と惹かれて中へ入り、所持金すべてを使って大きなシルエットのドレスを買ったのよ!
「東洋の魂」を全く知らなかったけれど、その何かに惹かれたのね。
パリはそのころ、ドーリィで女性らしいものばかりが主流だったけれど、その大きなシルエットがとってもセクシーに見えたのよ。
それが私のヨウジの服との出会いね。

編集部

ヨウジヤマモトの服はそれ以降も買い続けているのですか?

アン・ドゥムルメステール

ほかのデザイナーの服を買わない主義なの。
自分が本当に好きなものを作ることがラグジュアリーだと思っているのよ。
でも、そのヨウジのドレスは今でも持っているわ。

編集部

耀司さんは彼女の服を持っていますか?

山本耀司

持っているよ。
特に彼女がメンズウェアを始めてからのものをね。

アン・ドゥムルメステール

私の夫は、私がメンズウェアを始める前、ヨウジの服を買っていたわ。
彼、ヨウジの服が大好きなのよ。

編集部

共通の好きなことなどはありますか?

イレーヌ・シルヴァーニ

音楽かしら?

山本耀司

僕たち二人には一つだけ大きな違いがある。
それは僕が男で、彼女が女ということ。
僕たちはたくさんのことにインスパイアされ、彼女も同じ。
違いといえば性別だけでしょう。

アン・ドゥムルメステール

私たちは全く異なるカルチャーや背景を持っている、全く異なる個人。
お互いに強くて、個性的な人間なの。
質問はなんでしたっけ(笑)?

イレーヌ・シルヴァーニ

お互いが共通して好きなことよ。

アン・ドゥムルメステール

ヨウジは音楽が好きですよね?

山本耀司

そうだよ。

アン・ドゥムルメステール

どのジャンルの音楽が好きなの?
それとも、ご自分の音楽を作るほうが好きなのかしら?

編集部

知人が耀司さんのCDを持っていますよ。

山本耀司

その話は忘れてほしいな・・・・・。

編集部

アンは耀司さんの音楽を聴いたことがありますか?

アン・ドゥムルメステール

まだないわ!
私もミュージシャンをリスペクトしているから、これはお互いに共通していることといえるんじゃないかしら?

イレーヌ・シルヴァーニ

ヨウジはボブ・ディランが好きだったわよね?

アン・ドゥムルメステール

素晴らしいアーティストの一人よね。

山本耀司

そうだね、ボブ・ディランはいいね。

 

男性と女性、西洋と東洋

山本耀司382 対談山本耀司
「VOGUE HOMMES JAPAN VOL.6 2011年S/S」より

 

  • 山本耀司
    Photography : Carlotta Manaigo

編集部

先ほど、耀司さんが性別についておっしゃっていましたが、男と女、この定義はどのようなものでしょうか?

山本耀司

僕は定義なんていうものはないと思っている。
むしろ、必要がないといえばいいのかもしれない。
ただ、僕は女性デザイナーたちをいつも嫉妬しているんだよ。
彼女たちは女性の肌のバイブレーションを自分自身で感じることができるからね。
特に首のラインの美しさ。
僕はその点に関しては才能がない。
体によって、肌のバイブレーションによってデザインされたものに常に嫉妬しているよ。

アン・ドゥムルメステール

でも、あなたはメンズウェアをバイブレーションによって作れるんじゃないかしら?

山本耀司

でも、男性はファッショナブル過ぎないほうがいい。

アン・ドゥムルメステール

それは私も賛成!
でも、正しい服を着ているかぎり、男性はファッショナブルになれるわ。
私は人間というものを信じているの。
男性も女性も、男性的、女性的要素の両方を持っていて、この二つの要素はとても興味深いものを作り上げる。

山本耀司

カテゴリーが・・・・・。

アン・ドゥムルメステール

そう、ファッションでは「男性はこう、女性はこう」っていうカテゴリーがあり過ぎるけど、これは好きじゃないわね。

編集部

それでは、西洋の文化、東洋の文化についてはいかがですか?

アン・ドゥムルメステール

祖先についてすごく敏感で、常にヨーロピアンな何かと関係していると感じるわ。
エドガー・アラン・ポーやヴィクトル・ユゴーの本を読んだり、18世紀のアート作品を見たりするとき、常に自分自身とのつながりを感じるの。
反対に、素敵な日本人男性を見たとき、好奇心を覚えるわ。
なぜって、私は彼らのことを知らないし、とてもミステリアスに感じるの。
何が違うのかもわからないし、それを解明することもできないのだけれど、そう感じるのよ。

山本耀司

僕にはそういった境界線のようなものはないんだ。
なぜなら、僕が育った戦後の東京には何もなくて、「典型的な日本」という影響を全く受けないで少年時代を過ごしたよ。
だから、僕は”日本”ではなく、”東京”に生まれたんだ。
デザインを始めた当初は、「君はとてもインターナショナルなデザインをするね」って言われていたんだけど、パリに行ったら、「とても日本的なデザインをするね」って言われ始めたんだ。
でも、僕は今でも自分が日本人だと言われる理由が本当にわからない。

編集部

耀司さんが初めて海外旅行されたのはいつですか?

山本耀司

大学3年生の時、大きなヨーロッパ旅行をしたんだ。
横浜港から船を使って、まずは当時のソビエト連邦に到着したものの、”サービス”なんていうものがなかったので家畜のように扱われてね。
それからシベリア鉄道で1ヶ月かかってフィンランドへ行き、その後はバックパッキング。
さらに1ヶ月かかってパリへ。
確か到着したのは東駅で、その瞬間、「ここが僕の場所だ」と理解もなしに思ったんだ。
北欧あたりのクリーンな情景を見たときには全く惹かれなかったんだけど、パリの人々の匂いや声、ジタンなんかのタバコの強い匂いにほっとしたね。

編集部

アンの活動拠点、アントワープについてはいかがですか?

山本耀司

道を歩いていて特に何かを目にするということはないんだけど、誰かに案内されて建物の中に入ると、そこは守られた京都のようなんだ。
それに、街も人も洗練されている。

編集部

アンは東京についてどのような感想をお持ちですか?

アン・ドゥムルメステール

2回しか行ったことがないのだけれど・・・・・・。

山本耀司

彼女は飛行機が嫌いだから(笑)。

アン・ドゥムルメステール

25歳のときと、2006年のショップオープン時ね。
東京では大きなショックを受けるわ。
なんと表現すればよいのかしら。

山本耀司

カオス?

アン・ドゥムルメステール

そうね・・・・・、言葉も全くわからなかったけれど、デザインや好奇心、エネルギーといったもののすべてが興味深かったわ。
あと、思ったことは、「フランスの人たちはすごい怠け者」って、本当に(笑)。
一度だけ、東京でファッションショウをしたとき、日本人の子たちにフィッティングの手伝いをお願いしたの。
ショウの直前、私がチェックをしようとしたときには、その日本の若者たちが完璧に仕上げてくれていて、「こんなことがありえるの!?」って(笑)。
彼女たちには本当に感動させられたわ。

 

セカンドスキンとしての衣服

ヨウジヤマモト383 1993年秋冬カタログフロック・コート ヨウジヤマモト 1993年秋冬
「Yohji Yamamoto」より

ISBN2-84323-704-1

 

  • 2色使いのリバーシブルのフロック・コート
    ヨウジヤマモト
    1993年秋冬
    撮影:Catalina Cot

編集部

お二人の作品には、共に静けさが漂うだけでなく、天然素材を多く用いたスタイルが多く見られますが、どのようにしてそこに行き着いたのでしょうか?

アン・ドゥムルメステール

自分の心に従っただけよ。

山本耀司

僕たちは周りをきょろきょろと見ないんだ。
自分らしくあり続けるだけ。
静かにデザインを始め、好きなようにカッティングする。
決してトレンドを追うようなことはない。

アン・ドゥムルメステール

何が好きで、何が嫌いなのかに正直なだけ。
まるで人生をかけた大仕事のようなものよ。
大きなチェーンを一つ一つつないでいくようにね。
コレクションを共に作り上げてくれた人がいて、毎回、そのコレクションからさまざまなことを学び、今の私がいる。
そして、そのチェーンをもっともっとつなげていくのが私にとって最も大切なこと。
私たちは美を追い求め、セカンドスキンを作っているの。
それは人々の感情表現を手助けするものでもあるのよ。
でも、すべての人が私の服を必要としているわけではなくて、特定の人たちだけのためにね。

山本耀司

もちろん、そうだね。

編集部

メンズとレディースの服をデザインするとき、何か決定的な違いはありますか?

山本耀司

おそらく、彼女は同じ精神を持って両方をデザインするんじゃないかな。

アン・ドゥムルメステール

男性と女性の違いはとてもミステリアスなものだし、体が異なれば、表現もバランスも異なるわ。
メンズ服を着ても自分を男だと思えないのが最大の違いね。
でも、自分の中で理解できない何かも、感じることだけはできるわ。
私はメンズをデザインするとき、いつも夫に着てもらって感想を聞くの。
例えば、私が彼にそのジャケットが似合うって言っても、彼がそう感じないかぎり、私はそのジャケットを修整しなきゃいけないのよ。

山本耀司

彼女は(夫がモデルになってくれて)ラッキーだよね。

アン・ドゥムルメステール

私たち二人は、人間そのものに対して強い敬意を払っているの。
人間用の入れ物を作っているわけじゃないのよ。
自分たちの才能を使って、”美”を与えたいと思っているの。

山本耀司

「Can I help you ?」という精神だよね。

編集部

服作りをされる際、イメージされるのは西洋人ですか?
アジア人ですか?

山本耀司

基本的にはアジア人。
レディースでは西洋人モデルから始めるときもあるかな。

アン・ドゥムルメステール

私、夫、一緒に働いているスタッフ・・・・・、周りにいる人たちね。

編集部

背が高く、脚が長い、小顔の白人モデルがファッション界で美の象徴とされてきましたが、それとは少し異なるアジアンビューティーについてのお考えをお聞かせください。

アン・ドゥムルメステール

日本でテレビを観たとき、CMで、なぜかブロンドヘアの白人モデルがコーヒーを宣伝していたわ。
なぜ日本のテレビなのに、白人を起用しているのか理解できなかったわ。

山本耀司

背の高いヨーロッパ人に理想を抱いているんだろうね。
でも、それはとても古い考え方・・・・・。

アン・ドゥムルメステール

黒髪で黒い瞳を持った日本人を見ると、私はとても美しいと感じるわ。
でも、もしかしたら人は、いつも自分にはないものに強く惹かれるのかもしれないわね。

山本耀司

それに日本はとてもアメリカナイズドされているんだよ。
僕はそれに本当に失望させられたね。

アン・ドゥムルメステール

それはヨーロッパも同じよね・・・・・。

 

現代ファッションは後退中?

ヨウジヤマモト384 1993年秋冬カタログフロック・コート ヨウジヤマモト 1993年秋冬
「Yohji Yamamoto」より

 

  • 2色使いのリバーシブルのフロック・コートのディテール
    ヨウジヤマモト
    1993年秋冬
    黒い革のベスト

    撮影:Alfredo Albertone

編集部

アジア、そして世界のファッションの未来についてはどう考えていますか?

山本耀司

僕はいつでも「(未来が)変わるのなら変わればいい」と思っているんだ。
それは決して僕らのせいではないからね。
真のファッショナブルというのは、鍛錬し、経験し、知識を身につけ、インテリでなければならない。
そこで初めてファッションを楽しめるようになるんだ。

アン・ドゥムルメステール

約25年前、私は大きな期待を抱いていたわ。
すべてが変わり、ドーリィなものも変わり、未来へ向けてすべてが大きく80年代に変わったと思ったの。
でも、悲しいけれど、今、ファッションは過去を見ているように思うわ。
まるで昔ながらの女性の生き方を女性に押しつけているような・・・・・。
2011年はもっと自由になると思ったのに・・・・・。
がっかりしているわ。
若い女の子たちを見ていると、彼女たちの格好はまるで60年代だったり80年だったり、「私は今どこにいるのかしら?」って思うのよ。
私は2011年にいたいのに。

山本耀司

まずはテレビを、そしてテレビのプロデューサーたちを変えなければいけないね。

編集部

アジアのファッションマーケットについてのお考えをお聞かせください。

山本耀司

ありとあらゆる事業が中国に進出していって、すべての人たちが次のマーケットは中国だと言う。
でも、これはとても危険なこと。
感謝すること、素晴らしいカルチャーを享受すること、そして、繰り返しになるけど、経験することが必要なんだ。

アン・ドゥムルメステール

私はそういうことはあまり考えないのよ。
でも、もし中国に私たちとコネクトする魂が存在するのであれば、彼らは私たちのことを見つけてくれると思う。
ヨウジが言ったように、経験の浅い人たちから利益を搾取したいと思わないの。
プロダクトやファッションが今まであまりなかったからと言って、その新しいマーケットに飛び込んでいくのを見るのは気分のいいものではないわ。
そこに敬意があるとは思えないのよ。

山本耀司

ちょっとまだ早過ぎるんだ。

編集部

その他、お互いに聞きたいことなどはありますか?

山本耀司

僕は彼女に質問なんてないよ。
最近、若いアシスタントたちがよく彼女の服を着てアトリエにくるからね(笑)。

イレーヌ・シルヴァーニ

怒ったりしないの?

山本耀司

まさか(笑)。
むしろインスパイアされているよ。

アン・ドゥムルメステール

聞きたいことはあるけど、皆がいる前で聞けないわ(笑)。

  • イレーヌ・シルヴァーニ
    フレンチ・ヴォーグの元編集長
    ヨウジヤマモト・パリ社でクリエイティブ・コンサルタントを務める

 

アン・ドゥムルメステールについては、以下も参考にしてください。

「クリエイターが山本耀司を語る」は、以下も参考にしてください。