袖の造形の変化 小池千枝先生

今回は、袖の造形的変化について紹介します。
3,000年以上の歴史の中で、袖の造形の変化を見ていきます。

 

図1 紀元前1460年ころ

小池千枝先生 袖の構造の変化02エジプト 紀元前1460年ころ
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • エジプト
    紀元前1460年ころ
    「服装の歴史」
    座右宝刊行会刊

図1は紀元前1460年ごろのもの。
エジプト時代の装いで、女性はつりひもをつけたスリムな服を、男性はチュニックを着用しています。

 

図2 紀元前550年ころ

小池千枝先生 袖の構造の変化03ギリシャ 紀元前550年ころ
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • ギリシャ
    紀元前550年ころ
    「図解・服装の移り変わり」(西洋編)
    東海書房刊

図2はギリシャのドーリア式キトンです。
紀元前550年ごろまで広く用いられたものです。
肩から流れた部分が袖といえばいえるもので、身頃との境界線ははっきりしていません。
着方によっては袖になり、または身頃になってしまうものです。

しかし、この平面的な衣装の中に、やがては体にフィットしていく一つの原型をみるものです。

 

図3 1350年

小池千枝先生 袖の構造の変化04ロマネスクからゴシック 1350年
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • ロマネスクからゴシック
    1350年
    「OUTLINE OF ENGLISH COSTUME」
    BATSFORD

図3は1350年のもの。
ロマネスクからゴシックの時代に主としてみられるもので、ごくシンプルに体に適合したローブ(ドレス)です。
このローブには体幹部と腕との明確な区分がみられ、袖の機能性の高さが感じられます。

また、このシンプルなフィッティングは、次に展開されていく立体感への下地とみることができます。

 

図4 1590年

小池千枝先生 袖の構造の変化051590年
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • 1590年
    「DICTIONAIRE DU COSTUME」
    GRUND

図4は1590年のもの。
腕つけ根の機能的な方向性を象徴したような肩部の球形のアクセントは、意表をついた感じでおもしろいものです。
また、上腕から前腕にかけてのフィットした部分にも、手をつくした装飾性がみられます。

 

図5 1666年

小池千枝先生 袖の構造の変化061666年
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • 1666年
    「DICTIONAIRE DU COSTUME」
    GRUND

図5は1666年のもの。
このころにみられる装飾性は男性の装いにまで及び、肩、肘、袖口にかけて、房、リボン、レースなどで飾り立ててあります。

 

図6 1707年

小池千枝先生 袖の構造の変化071707年
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • 1707年
    「DICTIONAIRE DU COSTUME」
    GRUND

図6は1707年にみられる、肘から手にかけての動きと装飾性を華麗に演出したものです。
繊細なレースを豊かに使った袖は、フィットしたボディと対照的です。

ルネサンスからバロックの時代にかけては立体的造形の強いものがあり、素材の変化や装飾技術の華麗なる花の咲いた時代ともいうべきでしょう。

しかし、このような装いは、上流社会、権力者のものであり、同じ上流社会のものであっても、20世紀の初めにみられる図8のようなスリーブレスのイブニングドレスに至るまでには、かなりの道のりがあります。

 

図7 1890年

小池千枝先生 袖の構造の変化08レッグオブマトンスリーブ 1890年
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

  • レッグオブマトンスリーブ
    1890年
    「DICTIONAIRE DU COSTUME」
    GRUND

図7は1890年のもの。
極端に細まったウエスト、またそれをより強調するために肩先をアクセントづけています。
図4と同じような肩先のアクセントづけでも、このジゴ(gigot〈仏〉、レッグオブマトンスリーブと同じ)には、やがて来る20世紀のテーラードスタイルのジャケットを予想させるものがあります。

今日の機能性と着心地が優先したシンプルな装いは、何千年という時間を経ても少しも変わらないものでしょう。
それは、いまの着やすいTシャツやサロペットなどに、図1のようなエジプト時代のものとの共通点をみることからも明らかです。
まさに、時とともに歩くことは、つきぬ興味のあるものといえるでしょう。

 

図8 1926年

小池千枝先生 袖の構造の変化09アール・デコ・スタイル 1926年
「袖 着やすさと美しさのテクニック」より

 

服装は、その国のその時代の文化の象徴であり、それぞれの人種の造形性、趣味のあらわれです。
それらの服装の歴史のなかからシルエット一つをとり上げても、一枚の布を体にまとうことから始まり、幾つにも裁断された布によって作られる立体感の強いものまで、限りなく変化をみせています。
変化のサイクルも一定ではなく、1,000年も前のシルエットに現代のものとの共通点をみたり、近くは2、30年前のものが復活してくることもあります。
繰り返すといっても、それは全く同じものではなく、当然時間の差や場所の差があらわれるものです。
まさに変形螺旋階段をめぐるような変化といえるでしょう。

 

参考文献

  • 袖 着やすさと美しさのテクニック
    ISBN4-579-10131-6

小池千枝先生の「袖 着やすさと美しさのテクニック」については、以下も参考にしてください。

 

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